その3「驚異的数字」
8月2日、NHK将棋の藤井君は強かったですね。藤井君の相手の塚田氏は過去に「王座」のタイトルを取っています。また、名人戦の挑戦者を決めるA級リーグに1度でも入ればもうそれだけで一流と見做されますが、塚田氏は通算7期A級リーグに入っています。塚田氏はもうすでにトップ棋士なのですが、その塚田氏を相手に藤井君は横綱相撲を見せました。塚田氏は前半から果敢に仕掛け藤井君の王に迫りますが、攻めあぐね、手が藤井君に回ると、もうそこからは一直線に終局でした。2回戦の相手は、現在「王位」のタイトル戦を戦っている木村一基王位で、大変いに楽しみです。
藤井君、相変わらず活躍していますね。「活躍している」とはやや漠然とした表現なので、数字でその活躍を見てみることにしましょう。プロ棋士になるには大変な高い壁があり、その高い壁を越えることができた、選りすぐられた才能の持ち主しかプロ棋士にはなることはできませんので、プロ棋士はだれもが紙一重のところの勝負で凌ぎを削っています。従って、勝ち負けの数が半々なら上出来で、一つでも勝ち越すことができれば大成功なのです。相撲でもそうですね、勝ち越すことを“給金直し”などと言ったりしますが、囲碁将棋の世界でもその年度で一つでも勝ち越すことができれば万々歳なのです。
藤井君の対戦成績を見てみましょう。2016年度は加藤一二三(ヒフミン)との対局が一局あっただけでそれに勝利しましたので勝率は100%ということになります。ま、これは参考記録といった感じですね。
2017年度は83.6%、 2018年度84.9%、2019年度80.3%
この数字がどんなものかピンと来ない方もいらっしゃるかも知れませんが、年間で勝率8割を超える棋士は毎年一人出るかでないかの数字で、10回の対局で8回以上勝つ訳ですから、これは驚異的と言うしかありません。「こんな数字を生涯1回でも出してみたいものである…」、NHK杯解説者の谷川浩司氏は番組の中で述べていました。プロになり立ては強い棋士と当たることが少ないので勝率が高いのではないかと思われるかも知れませんが、タイトル戦や強豪棋士との対局が続く今年度も87%の勝率をあげています。
年度ではなく通算の勝率で見てみましょう。
通算勝率 1位84.16%(藤井君)2位70.47%(羽生善治) 3位60.53%(谷川浩司)
藤井君の場合、対局数がまだ少ないので単純比較はできませんが、それでもぶっちぎりの一位です。連勝記録はご存じの29連勝ですね。それまでは屋敷九段の28連勝でしたが、それはプロに入って何局かを経験し、プロの水に慣れ勢いがついてからの連勝記録でした。藤井君の場合はプロに入って無傷のままの29連勝ですから、囲碁将棋ファンでなくともワクワクして当然ですね。まだプロ入りして4年ですが、この勢いがどこまで続くのか大変興味深く目が離せません。こんな勝率が続くようなら色んな影響が出て来るでしょうから、そちらが心配になります。そのくらい凄い数字を叩き出しているのです。
2016年4月~9月にかけて、第52回将棋奨励会三段リーグ(プロ最終試験)を勝ち抜き藤井君はプロの資格を得ることになりました。年に二回、三段の棋士30名がリーグ戦を行い、上位2名がプロの資格を得ることができるシステムです。最終戦を前に藤君は12勝5敗で、最終局の結果次第ではプロになれるかなれないかの瀬戸際です。最終戦に見事勝利し、13勝5敗で見事トップ通過となりましたが、その最後の対局相手が西山朋佳さんという方です。みなさん、この西山朋佳さんという方を是非チェックしておいて下さい。将棋界では男性と同じ基準のプロ試験にチャレンジした方は何人かいましたが、未だにプロ試験(三段リーグ)を通過した方は表れていません。しかし、通過一歩手前まで西山朋佳さんが迫っています。直近の三段リーグで「女性初の…」との期待が高まりましたが、惜しくも第三位で通過はなりませんでした。成績は14勝4敗でしたので、藤井君の13勝5敗より上の成績でしたから、プロ入りしていたら藤井君並みの活躍をしてもおかしくありません。現在、最新の三段リーグが進行中で、暫定的ですが7勝3敗でトップを走っています。この9月には全国紙の一面を賑わして欲しいですね。その西山朋佳さんが、8月8日(日)NHK将棋トーナメントに登場します。是非、ご覧ください。
さて、「将棋は覚え易いが、囲碁は覚えにくい…」と言われることがありますが、そんなことはなく、囲碁のルールは3つしかありません。
1、 二人が1回づつ順番に石を盤上に置く
2、 線が交差している点に石を置き、すでに石が置いてあるところには置けない
3、 石を置くとろがなくなるまで打ち、陣地を多く取った方が勝ち
この3つだけです。この3つならどなたもすぐに理解できますね。道具はどうにでもなります。チェス盤でもいいですし、紙に線を引けばそれで碁盤になります。碁石は100均で売っているゲーム用のチップでもいいですし、それこそ何でも代用できます。今は、無料アプリがありますから、すぐにでも始められます。「パンダネット(囲碁無料アプリ)」、「ポケット囲碁」、「みんなの囲碁」などです。1分ほどでインストールすることができ、すぐに対局できますので、是非1度試してみて下さい。
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