小泉八雲が見たかった日本

絵画や家の装飾、線と形に依存するすべての事物において、日本人の趣味は渋みの一語に要約できよう。大きいことを偉大なことと履き違えているこけおどし、見せびらかしと乱費によって美しさを押し通してしまうような俗悪さなどは、日本人の考え方のなかに見出すことはできない。
人々が正直である国にいることは実に気持がよい。私は決して札入れや懐中時計の見張りをしようとしない。錠をかけぬ部屋の机の上に、私は小銭を置いたままにするのだが、日本人の子供や召使いは一日に数十回出入りしても、触ってならぬ物には決して手を触れぬ…
一つの文明が滅んだのである。一回限りの有機的な個性としての文明が滅んだのだ。われわれにとってのおおきなもの、つまり文明が、いつしか喪失してしまったのだ。