· 

令和・囲碁美人 ファイルナンバー3

 碁盤に向かい囲碁に興じる振袖姿の女性を紹介しています。今回ご紹介する方は、桜田淳子の桜を藤に変えたお名前の、藤田淳子さんです。都心のIT企業にお勤めの、快活なOLさんです。前回ご紹介した加藤文枝さんとは同郷の北海道・旭川出身で、ボルダリングを趣味としていて、週末には都心にある専用の壁を上っているそうです。IT関連の知識が豊富な藤田さんは、どこでも重宝されているようです。

 高校を卒業後は、千葉大学に進み、フランス文学に没頭する学生生活だったようです。従って、成人式で新成人が振袖で華やいでいる時でも、寸時も惜しむように研究に没頭したようで、何と今回が振袖を初めて着ることになったようです。それにしても、アンティークの振袖を着たことがある方が非常に少ない中で、初めて着る振袖が大正時代から大事に受け継がれてきたアンティークの振袖とは、巡り合わせの妙とでも言うべきでしょうか。

 さて、藤田淳子さんを紹介する上で、フランス文学が大変重要なキーワードになります。フランス文学をある程度まで修めようとするには、まずフランス語をしっかり修めなくてはなりません。また、フランス文学では、エスプリに代表される広く深く、それでいて当意即妙の鋭い知恵を駆使した理解力と表現力を要求されるようです。ベースとなる文学や哲学分野は勿論、比較言語学や比較文化論など幅広い分野の研究なども必要なようです。と、門外漢の私がくどくど述べるていますが、それより藤田さんの一つの論文(ご自身は単なるブログと謙遜しておりますが)を見て頂くのことの方が、彼女が振袖を着る時間も惜しみ到達した、”知の領域”とでも言うべきものを理解して頂けると思いますので、(ご本人の了解済みで)ご紹介させていただきます。

 https://bit.ly/2WupNX7   

題材は、きら星のごとく存在するフランス文学の中でも、一際異彩を放つ、泥棒作家ジャン・ジュネ「葬儀」についてです。是非、ご覧になって頂きたいと思います。実は私もまだこの小説は読んだことがなく、現在本を注文中です。夢野久作の『ドグラマグラ』という小説がありますね。「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」、「まともに要約することは到底不可能な奇書」、「読み直せば読み直すほど解らなくなる」などの言われ方をしている小説ですが、「『ドグラマグラ』のほうがまだ読み易い…」ということですから、「葬儀」とは一体どんな小説でしょう、みなさんも是非チャレンジしてみて下さい。

 さて、振袖に話を戻しましょう。人生初の振袖の感想を伺ったところ、「思っていたより苦しくなく、着物も軽く感じた…」とのことでした。最初の振袖の体験で、大変に良い印象を持って頂いたようで、少しほっとしています。しかし、それはある程度予想されたことで、それについて少し説明をさせて頂きます。       

 まず、着物ですが、大正時代の振袖は現代の振袖に比べて、素材の絹が違います。現代は、着物を着慣れていない方をはじめ色んな方が着ることを前提にしています。また、色んな状況で着用されることを想定し、ある程度汚れてしまうことを織り込み済みに、昔のものより丈夫にできています。そのぶん、全体的に硬い手触りで、総重量もやや重くなっています。大正時代の振袖は、良家のお嬢さんが、傍に侍るお付きの者に手を取られ、ゆったりと、おしとやかに着ることを前提としていましたので、素材の絹も柔らかく手触りもしっとりしています。「軽く感じた…」という印象はその通りで、アンティークの振袖も帯も全体的に柔らかく軽く作られています。

 そして、もう1点、案外見落とされがちな点が藤田さんの感想に含まれています。振袖を選ぶ場合、何と言っても好みの色や柄を選ぶことになります。せいぜい髪型や髪飾りなどのアクセサリーには気が行きますね。しかし、着心地振袖姿の美しさを大きく左右する着付けの方の技術にまではなかなか気が行かないものです。着物は、着崩れしないようにと、きつく着付けをすれば着崩れしにくくなるのは確かですが、着ていて苦しくて仕方がなく、せっかくの振袖を楽しめないような状況になってしまうことが多々あります。また逆に、苦しくないようにと、緩い着付けをすると直ぐに着崩れしてしまい、成人式の会場に着く前にぐずぐずになってしまっている方もよく見受けられます。成人式で初めて和服を着るという方も多いので、どんな着付けをされても、こんなものか、で済ませされてしまっているようです。滅多に着る機会のない振袖ですから、一日中心地よく、綺麗な姿を保ったままで楽しみたいものですね。『着ていて楽に感じ、それでいて着崩れせず、見た目が綺麗な姿を保つ』、そのような着付けは熟練した技術を持った着付け師でないとなかなかできません。着付けを頼む際は、ある程度着付け師の方の経験や評判を調べた上でお決めになることをお勧めします。誰かがやるが誰がやってくれるのか解らない状況で着付けをやってもらうのは、やはりリスクを覚悟しなければなりません。

 ということで、藤田さんの最初の振袖体験はとても好印象を持って頂いたようで、本当に良かったですし、実際にとても綺麗に着こなしていました。囲碁も、今はまだ初心者ですが、今後本腰を入れて学ぶ心構えのようですので、半年後1年後が非常に楽しみです。