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令和・囲碁美人 ファイルナンバー2


 アンティークの振袖(大正時代)姿の女性が、碁盤に向かい囲碁に興じるシーンをご紹介しています。今回は、加藤文枝さんです。

 「…加藤さんは、私の大事な生徒さんです!…」プロ棋士の泉谷先生(泉谷英雄、日本棋院所属、八段)がおっしゃっている通り、プロの先生から囲碁の手ほどきを長く受けている方です。加藤文枝さんって、どこかで聞き覚えのある名前ではないですか?2週間ほど前に、「いしのおと」という囲碁のマンガを紹介させていただきましたが、その作者の女性です。

 旭山動物園で有名な北海道旭川の出身です。北海道出身ということで、同郷の小林光一九段、山下敬悟九段などには特に思い入れは強く、応援されています。碁では、武宮正樹九段の宇宙流に魅了され、大きな模様で雄大な布石の碁を研究されているようです。地元の国立大学を卒業する際に、地元での就職という選択もあったようですが、小さい頃から絵を描くことが大好きで、夢であった漫画家を目指し上京しました。漫画のメインテーマに選んだのはやはり碁でした。囲碁の内容もさることながら、プロアマ問わず日々繰り広げられる囲碁に関連する悲喜こもごものストーリーに、漫画のテーマとしての可能性を感じたからです。確かに、どの場面を切り取ったとしても、囲碁には尽きない魅力とストーリ性がありますね。

 さて、今年の2月に作品集「いしのおと」の出版となりましたが、そこに登場するキャラクターのその後を描いた続編の構想が煮詰まりつつあり、「続・いしのおと」とも言うべき作品を制作中だそうです。とにかく、個性的なキャラクターが多く登場しますが、そのキャラクター達が職場や碁会所には必ずいそうなキャラクターで、「まるで○○さんだな~」などと、自分の体験と重ね合わせながら読んでしまします。勿論、漫画のもつダイナミックなストーリー性は十分に楽しむことができます。今後の作品でも、蒔絵の碁盤や古典柄の振袖姿の女性が登場するようで、実際のアンティークの振袖や丸帯を目の当たりにして、少し興奮気味でした。ゆっくりと、しかし、着実に漫画家としての歩みを進めています。

   「いしのおと」作:加藤文枝 momofumi8.booth.pm

今回、数あるアンティーク振袖から選んだ柄は、”青地鳳凰づくし”でした。2017年の年賀状のデザインは、半現実半架空のキャラクターが鳳凰のごとく縦横無人に活躍することをイメージした図柄です。鳳凰のイメージを追っていたところに、全面にあらゆる鳳凰が飛び交う大変に珍しい図柄のアンティーク振袖を見た瞬間、「これだっ!」と閃いたようです。振袖の図柄は、ある意味では年々地味になりパターン化していると言えます。現在、振袖の図柄に凝って、個性的な柄をつくっていたら、とても採算が合わないのです。その意味では、大正時代の振袖は、その華やかさではピークと言っていいでしょう。勿論、既製品などはなく、すべてオートクチュールですから似たような柄はあっても同じ柄はありません。花鳥風月、松竹梅鶴亀、などの目出度い柄が中心ですが、縁起が良いとされる鳳凰で振袖を埋め尽くすデザインを考えた職人さんは、何と豊かな発想だったことでしょうか。