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5「炎立つ」高橋克彦

著者の高橋克彦氏は岩手県の出身で、学生時代は東京で過ごしたり、ヨーロッパを放浪していた時期はあったようですが、一貫して地元岩手に拠点を置き活動を続けています。そして、中央や世間に阿ることなく地元の立場で発信を続けてきました。このような作家は大好きですし、必要だと思っています。ヨーロッパを放浪中にビートルズと出会い、最初にビートルズと会った日本人というユニークな逸話もあるようです。                                                             さて、桃太郎のような鬼退治の話がありますが、何とも残酷ですね。鬼が島で鬼たちが平和に暮らしているところに、武器と正義をもった中央の役人武人たちがやって来て、平和に暮らしている鬼を退治してしまうのですから。「炎立つ」は東北地方の豪族間の勢力争いですし、「火怨(かえん)」は阿弖流為(アテルイ)に代表される蝦夷征伐の話で、両方とも最後は中央政権に滅ぼされてしまいます。東北を鬼ヶ島に、東北で平和に暮らしている人を野蛮な鬼として、正義を持っている中央政権が野蛮な鬼ヶ島と鬼を平らげてしまいました。坂上田村麻呂は虐殺者ではなく、勝者側が作った歴史ではヒーローとなっていますね。                              白人は、平時は原則を持ち出すが 都合が悪くなると大砲を持ち出す                                とよく言われますが、今まさにそのことが具体化している事態が起こっていますね。中国が香港や台湾の自由を制限し、中国本土に都合がいいように従わせようとすることは大きな問題がある。そして、反中国の動きが少しでも見えたら軍隊を差し向けようとしている姿勢には断固反対する。そんなトランプ氏ですが、一方ではアメリカ国民が政治的アピールのデモを行っていて平穏を脅かしている、大規模になるようなら軍隊を出してでも鎮圧すると表明しました。ダブルスタンダードの善悪を問うたり、ある種の政治的アピールをしようとするものでは決してありません。個々人や組織が持っている正義の基準や正当性の尺度は、流動的で時と場合によって恣意的に使い分けられるものではないか、という問いかけです。                                                   香港や台湾以上に、中国政府がチベットやウイグルに行って来た同化政策は、大きな問題があると多くの日本人は感じているのではないでしょうか。中国政府がチベットやウイグルに行う同化政策には問題があるが、東北や北海道で平和に暮らしていた人たちを蝦夷(えみし)・夷俘(いふ)・俘囚(ふしゅう)などと呼ぶことで蔑み、滅ぼしてしまうことは何の問題もない…、そう云うものかも知れません。また、チベット・ウイグル・香港・台湾の人たちの自治権や自由は願うが、沖縄の自治権や自由は認めない、そう云うものなのかも知れません。「東京に原発を」という本が話題になったことがありますが、東京の人間は「そんな危険なことが許されて堪るか…」と反対します。同時に「東北ならいいのだ…」、と平然としている、そんな論理と共通していると思います。高橋氏の作品はストーリーとしても面白いですし、現代人にも共通する問題を含んでいると思います。