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6「逝きし世の面影」渡辺京一

この本について、辛口の批評家で知られる西部氏が面白いコメントを寄せています。

「渡辺京二さんが『逝きし世の面影』という本で面白いことをやっていまして、幕末から明治にかけて日本を訪れたヨーロッパ人たちの手紙、論文、エッセイその他を膨大に渉猟して、当時の西洋人が見た日本の姿ーーいまや失われてしまって、逝きし世の面影ーーを浮かびあがらせているのです。この本を読むと、多くのヨーロッパ人たちが、この美しい真珠のような国が壊されようとしていると書き残しています。”この美しい真珠のような国”が、我々の住む国のことだと言ってもピンと来ないですね。身の回りに普通にあるものの価値は気が付かないものですが、×松から明治期にかけて日本にやって来た西洋人は日本の素晴らしさに驚き、多くの記録に残しています。ほんの一部ですが紹介させていただきます。

・日本には貧乏人はいるが、貧困は存在しない…

・日本人の生活はシンプルだから貧しい物はいっぱいいるが、そこには悲惨というものはない…

・…郊外の豊饒さはあらゆる描写を超越している天恵をうけた国であり、地上のパラダイスであろう…

・…日本では乞食でさえ節度あるふるまいをしている…

・そこいらに置きっぱなしにしていた自分の持ち物や小銭が一度も盗まれたことはなかった…

・きっと日本人は2世紀半というもの、主な仕事は遊びにしていたのではないでしょうか…

この本の数々の話は、お伽話の連続のようで、一体どこの国の話だろうかと不思議な気分になります。しかし、紛れもなく少し前までの日本各地の普通にあった日本人の暮らしを伝えた話ですそして、。最後に

・…日本はこれまで実に幸運に恵まれていたが、今後はどれほどおおっくの災難に出会うかと思えば、恐ろしさに絶えない…

かつて、朱鷺色と云う表現を使うことで、誰もがある色をイメージできていましたが、現代人は朱鷺色とはどんな色かをイメージできません。スズメやカラスが身の回りにいるように、かつては朱鷺も珍しい鳥ではありませんでしたが、いつしかいなくなってしまいました。いなくなってしまったのは朱鷺だけでしょうか。

自分も、その”美しい国”に生まれ、今のその美しさの中で生活している、そう思いたい気持ちです。

歴史家でテレビの歴史番組などでお馴染みの磯田道史氏は、ある講演で面白いことを言っています。

「自分には子供がいるが、家康・秀吉・信長のような覇者の話はあまり聞かせようと思わないし、今の青磁かがするような思考も勧めたくない。道で財布を落としても高い確率で本人に戻ってくる、日本がそんな国であることと、それを成り立たせている心の在り方のようなものを是非伝えたい…」、そのように言っております。そうです、まだ美しい真珠のタネは残っていると信じたいです。